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「ひそやかな残業」レビュー|職場の距離感が崩れる瞬間を描いたTLコミック

全2巻完結のオフィスもの。年上の上司との関係が変わっていく過程を、視線と手元の作画で積み上げる構成を、読後感と再読性の観点から評価しました。

4.0公開:更新:

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作品の概要

霧島あおばによる「ひそやかな残業」は、月虹コミックスから刊行された全2巻完結のTLコミックです。1巻あたり約180ページ、5話構成で、電子版のみの配信となっています。舞台は中規模の設計事務所で、主人公は入社4年目の設計補助、相手は10歳上の課長という関係から始まります。

物語は職場の外へほとんど出ません。会議室、給湯室、深夜のオフィスといった限られた場所を繰り返し使い、同じ空間で二人の距離だけが変わっていく構造です。第1巻は関係の変化まで、第2巻は周囲に知られるかどうかという緊張と、その決着に充てられています。

巻構成の目安

第1巻は導入と関係の成立、第2巻は継続の可否という配分です。1巻だけでも一区切りはつきますが、投げられた問いは2巻で回収されるため、まとめ買いを前提にしたほうが読後感は良くなります。

こんな人に刺さる

関係が変わる手前の時間を長く味わいたい人。 本作は全体の四割近くを、何も起きない職場描写に使っています。書類を渡す手つき、目を合わせない会話、退勤時間のずれ。こうした積み重ねを退屈と感じず、緊張の蓄積として楽しめるタイプの読者に向いています。

仕事の描写に嘘がない作品を求める人。 図面のやり取りや工程の遅れといった業務の細部が、関係の進行と連動しています。恋愛部分だけを切り出しても成立しない構造になっているため、職業ものとしての手触りを重視する読者ほど評価が上がるはずです。

強引な展開が苦手な人。 主人公の意思確認が丁寧に描かれ、相手の側にも引くという選択肢が常に残されています。力関係の非対称を都合よく扱わない姿勢は一貫しており、この題材で苦手意識のある読者でも読み通しやすい部類です。

読みどころ

作画面での見どころは手元の描写です。ペンを置く、袖をまくる、書類の角を揃えるといった動作が繰り返し描かれ、そのたびに線の速度が変わります。感情を台詞で説明せず、動作の精度で示す方針が徹底されており、読み返すと初読では気づかなかった伏線が拾えます。

構成面では、第1巻の第3話で視点が一度だけ相手側へ移る処理が効いています。それまで主人公の推測でしかなかった相手の態度に理由が与えられ、以降の同じ行動がまったく違って見えるようになります。視点移動を一度に絞ったことで、仕掛けとしての効き目が鈍っていません。

弱点は第2巻の後半です。周囲に知られるかどうかという緊張が主軸になった結果、それまで丁寧だった心理描写が展開の速度に押され気味になります。決着そのものは納得のいくものですが、第1巻と同じ密度を期待すると落差を感じます。

似た作品との比較

同レーベルの 「雨宿りの距離」 と比べると、本作は関係が始まるまでを、あちらは一度壊れた関係を作り直す過程を描いています。緊張の質が違い、本作は先が読めない不安、あちらは既知の相手との気まずさが原動力です。じれったさの方向で選ぶなら、初対面に近い距離を求める人は本作が合います。

同じ月虹コミックスの 「紅茶と陽炎」 は、沈黙の多さという点で本作と共通しています。ただしあちらは生活空間を舞台に、時間の流れそのものを主題にしており、職場という制約がない分だけ展開が緩やかです。同じ編集方針を別ジャンルで確かめたい読者には、この2作の読み比べが分かりやすいでしょう。

総評

評価は4.0としました。第1巻の完成度は高く、動作で語る作画と業務描写の連動は、この価格帯のTLコミックとして水準を超えています。第2巻後半の駆け足が惜しく、その一点で満点には届きませんでした。

「関係が変わる直前の空気を長く読みたい」「職場ものとしての説得力を重視したい」という期待で買うなら、2巻まで通して満足できるはずです。逆に、早い段階で関係が動く作品を求める場合や、群像的な広がりを期待する場合には向きません。まず第1巻を読み、手元の作画に反応できるかどうかを判断材料にするのが確実です。

作品データ

当サイト評価
4.0

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