「悪役令嬢とメンデレ王子」レビュー|約8時間、ハッピーエンド以外は全部バッドという転生乙女ゲーム
乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が、脇役のはずの王子に捕らわれる。禁断りんごのR18デジタルノベルを、約8時間という尺と「極上のハッピーエンド以外、バッドエンド」という選択構造から、どんな人に向くかまで整理しました。
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作品の概要
禁断りんごから2023年12月23日に配信された、女性向けのR18デジタルノベルです。シナリオは大虹蓮水、イラストはくろぽぽ。声を担当するのは一条ひらめと宮司道章造の2名。プレイ時間は約8時間、通常価格は2,200円、容量は約2.28GBです。
成り立ちが少し変わっています。本作は音声ドラマ『メンデレ・シリーズ1〜3』を土台に、新エピソードと新シリーズ『メンデレ4〜5』を加えてR18ゲーム版として再構成したもの。キャラクターソング、声優のショートインタビュー、歌詞、サンプル動画が同梱されています。つまり音声ドラマの続きが読めるゲームであると同時に、シリーズをまとめて追うための入口にもなっている、という二重の位置づけです。
対応環境はWindows10/11の64bit、Mac(iMac / MacBook Air / MacBook Pro)、そしてAndroid 9以上。APKが同梱されており、スマートフォンでも遊べます。
主人公は乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢。本来なら脇役のはずの王子に捕らわれ、「なぜ王子の都合のいいようにシナリオが変わっているのか」という謎が物語の軸になります。選択の結果は「極上のハッピーエンド以外、バッドエンド」という構造で提示されます。
こんな人に刺さる
乙女ゲームのお約束を一定量通ってきた人。 転生・悪役令嬢モノは、読み手がジャンルの型を知っていることを前提にして初めて成立します。本作の謎は「シナリオが本来の筋から外れている」という一点にあり、これは元の筋がどういうものかを想像できないと機能しません。定番の展開を何本か見てきた人ほど、ズレの意味を読み取れる作りです。
一人の声優が演じ分ける構造を楽しみたい人。 公式ページに名前が挙がる4名のうち、レグルス、レオ・ニス、リオンの3名を一条ひらめが担当します。しかもレオ・ニスは「レグルスによく似ているが内向的で人見知り」という第三王子で、似ていること自体が設定として明記されている。同じ声で「似ている別人」を成立させる必要があるため、演じ分けそのものが作品の骨格に組み込まれています。
まとまった時間を確保しにくい人。 プレイ時間が約8時間と公開されているので、完走までの見通しが立ちます。加えてAndroid 9以上に対応しAPKが同梱されているため、PCの前に座る時間をまとめて取らなくても進められる。長編を途中で止めてしまった経験がある人でも、条件は揃っています。
プレイの見どころ
構造上の要は、「極上のハッピーエンド以外、バッドエンド」という選択の設計です。中間の受け皿としてノーマルエンドを用意する作品も多い中で、本作はそれを置かないと最初から明示しています。中間がないということは、選択の一つひとつが最善かどうかだけで判定されるということで、緊張感の作り方が根本から変わります。
そしてこの設計は、転生という設定と噛み合っています。主人公は本来のシナリオを知っている立場ですが、そのシナリオが王子の都合で書き換えられている。つまり、持っている知識が当てにならない状態で最善手を選ばされる。メタ知識を持つ主人公から、その知識の優位性を奪う——という構図が、エンドの二分法によって強制されるわけです。設定とシステムが同じ方向を向いている例は、そう多くありません。
キャラクター設計も、このズレを軸に配置されています。レグルスは暗殺されたと思われていた第一王子で、才貌両全でありながら死にたがり、しかも自分では死ねない呪いを負っている。シリーズ名にもなっている「メンデレ」は、メンヘラ気質と上から目線のデレをこじらせた状態を指す造語です。一方のダンデは王兄レグルスを敬う第二王子で、熱血漢で義理堅い一方、融通が利かず、信じる相手の言葉を鵜呑みにしてしまう。この二人は「情報をどう受け取るか」という一点で正反対に設計されていて、シナリオ改変の謎を追う物語の中では、そのまま罠と手がかりの役割を担う配置になっています。
なお、公式ページで確認できる範囲では、リオンは「第四の悪役」とだけ紹介されて詳細が伏せられており、攻略キャラのうち2名は「データなし」の扱いになっています。ネタバレを避ける意図と読めますが、購入前に全体像を掴んでおきたい場合は、この点を織り込んでおく必要があります。
似た作品との比較
同じ乙女ゲームでも、「Monochrome Wizard~黒の讃歌、白の鎮魂歌~」とは立っている位置が正反対です。別の世界へ渡ることから物語が始まる点は共通しますが、あちらは世界も魔術体系も一から構築したオリジナルの戦記で、ジャンルのお約束を正面から積み上げていく作品です。対して本作は、お約束が既にあることを前提に、それが崩れていく様子を見せる——いわば一段メタな位置から書かれています。
条件面でも対照的です。本作は2,200円・約8時間で、Windows / Mac / Androidに対応。あちらは3,850円・Windows専用で、エンド数は12。予算と環境の制約が先に立つなら本作、腰を据えて分量を取りたいならあちら、という分かれ方になります。
音声ドラマ『メンデレ・シリーズ』を既に聴いている人にとっては、本作が1〜3を土台に4〜5と新エピソードを足した構成である、という点が判断材料になります。ただし既存分と新規分の比率までは公開情報から確認できませんでした。重複が気になる場合は、購入前に販売ページで収録内容をご確認ください。
総評
評価は4.5。 「極上のハッピーエンド以外、バッドエンド」という選択構造を、転生モノの主人公からメタ知識の優位性を奪う装置として使っている点を評価しています。乙女ゲームのお約束を題材にする作品は増えましたが、システム側の設計までそれに合わせている例は多くありません。公開されている4名のうち3名を一人の声優が担当し、そのうち一人が「主人公格によく似た別人」として設定されている配役も、狙いがはっきりしています。
満点にしていないのは、攻略キャラのうち2名が公式ページで「データなし」として伏せられており、購入前に誰を攻略できるのかを確定できないためです。演出上の意図とも読めますが、レビューとして事実を確認できない項目が残る以上は差し引きました。加えて、音声ドラマ版と本作の重複範囲も公開情報からは確認できていません。
「乙女ゲームの型が崩れていく過程を見たい」「一人の声優の演じ分けを聴き比べたい」という期待で買うなら、2,200円・約8時間という条件は十分に釣り合います。逆に、王道の恋愛劇をまっすぐ味わいたい場合は、前述の比較作のほうが近道です。
作品データ
- ブランド
- 禁断りんご
- 当サイト評価
- 4.5
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