「Monochrome Wizard~黒の讃歌、白の鎮魂歌~」レビュー|エンド12、発売後4年にわたって追加が続いた異世界トリップ戦記
経済的な理由で進路を断たれた少女が、逃げ込んだ森の洞窟から異世界へ。Duskの女性向けADVを、エンド12という配分と「痛み」を軸にしたキャラクター設計から、どんな人に向くかまで整理しました。
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作品の概要
サークル Dusk から2019年8月4日に配信された、女性向けのR18アドベンチャーです。シナリオは雪華、イラストは心友、音楽はシロ。声を担当するのは三楽章、深川緑、三重奏、浅瀬るいほか。攻略対象は3人、これにエンドの用意された1人が加わり、エンド数は12。主人公の音声を除いてフルボイスです。価格は3,850円、容量は約2.53GBです。
動作環境として案内されているのは、日本語版 Windows Vista / 7 / 8 / 10 のみです。MacやAndroidは含まれておらず、最終更新が2023年9月22日である一方、Windows 11 も動作環境には明記されていません。現行のPCで遊ぶ前提なら、購入前に販売ページで確認しておきたい点です。
物語の起点は異世界ではなく現代です。美しいが人形のような少女・立木花恋(名前変更可)は、経済的な理由で進学できず、ある理由で就職先も決まらないまま卒業の日を待っています。いじめっ子たちから逃げて入った森で奇妙な洞窟を見つけ、抜けた先は見たこともない異世界だった——という導入。途方に暮れる彼女の前に軍人らしき男たちが現れ、危険物を見るような目を向けてきます。キャッチコピーは「共に歩むか、嫉妬心に絡めとられるか。『痛み』を取り戻す、異世界トリップ戦記」。
こんな人に刺さる
設定の理屈から入りたい人。 本作の攻略対象は、能力がそのまま立場と傷に結びつくよう設計されています。ウィリアムは現国王の弟で第一魔術師団団長ですが、この世界で忌むべきとされる『死霊使い』の才能を持つ。死霊使いは十万人に一人という稀有な存在で、彼の能力は歴史上でも異常に高い。だからこそ兄王に迷惑をかけまいと王位継承権を放棄している。能力→社会からの評価→本人の選択、という順に理屈が通っているので、世界観を読み解く楽しさがある作品です。
攻略対象以外にも結末が用意されている構成を探している人。 アメリアはヒロインにとって初めての親友で、第一魔術師団の団員。姉御肌の彼女は攻略対象3人とは別枠の「エンド有りキャラクター」として案内されています。どのような結末かまでは公開情報から確認できませんでしたが、攻略対象の枠外にもエンドを置く構成であること自体は明示されています。
買ったあとに増えていく作品が好きな人。 2019年の発売後、DL達成記念として後日談ドラマ、SS、新規イベントCGが継続的に追加され、ver1.3まで更新されてきました。トーマスに至っては、バージョンアップでルートそのものが新規追加されています。購入時点の内容がその後も増えていくという運用は、同人ゲームでは珍しい部類です。
プレイの見どころ
軸になるのは、「痛み」という言葉が全キャラクターに一本の線として通っていることです。キャッチコピーは「『痛み』を取り戻す」。ヒロインは冒頭で人形のようだと形容され、痛みを感じない側に置かれています。一方の攻略対象は、全員が痛みを負った側です。ウィリアムは忌避される才能ゆえに立場を捨て、レオは実家の火事で家族全員を失った唯一の生存者。そのレオが骨をも焼き尽くす劫火の使い手であるという配置は、偶然ではないはずです。しかも彼は魔術師養成所時代からの同期で、みんなの兄的存在とされている。家族を失った側が兄役を担っているという設計は、キャラクター紹介の数行の中で既に完結しています。
トーマスの設計はこの二人と対照的で、輪郭がはっきりしています。光魔法と水魔法の使い手で、回復魔法は国内一。『五大公爵家』の末弟という出自も含めて、他の二人が抱える欠落を埋める側に立つキャラクターです。喪失を抱えた二人と、癒す側の一人。攻略対象3人の配置が、そのまま「痛み」というテーマに対する三通りの答えとして読めます。
もう一つ、キャッチコピーの前半——「共に歩むか、嫉妬心に絡めとられるか」——も設計の手がかりです。関係の到達点を「共に歩む」か「絡めとられる」かで二分するということは、エンド12という数字の内訳に、うまくいかなかった側の分岐も含まれていると読むのが自然です。攻略対象3人に対してエンド12という比率も、これと矛盾しません。
演出面では、主人公の音声を除くフルボイスであることが公開されています。一方、プレイ時間の目安は公開情報から確認できませんでした。エンド12・フルボイスという条件から相応の分量は見込めますが、正確な所要時間は購入前に販売ページでご確認ください。
似た作品との比較
別の世界に渡ることから物語が始まる乙女ゲームという点では同じでも、「悪役令嬢とメンデレ王子」とは作品の成り立ちが正反対です。あちらは既存の乙女ゲーム世界に転生し、そのシナリオが改変されているという、ジャンルのお約束をネタにするメタ的な作品。本作は世界も魔術体系も一から構築し、お約束を正面から積み上げていく王道の戦記です。
規模と条件も対照的です。本作は3,850円、エンド12、Windows専用。あちらは2,200円、約8時間で、Windows / Mac / Androidに対応します。手軽さと環境の自由度で選ぶならあちら、一つの世界を作り込んだ分量で選ぶなら本作、という分かれ方になります。
もう一点、運用の姿勢も違います。あちらは音声ドラマシリーズを一本のゲームにまとめた集約型。本作は発売から4年をかけてルートや後日談を足していった積み増し型です。買ったあとに内容が変わるかどうか、という観点では本作のほうに分があります。
総評
評価は4.0。 「痛み」というテーマを、キャッチコピー・ヒロイン像・攻略対象3人の能力設定まで一貫させている構成を評価しています。設定が世界観の飾りで終わらず、キャラクターの立場と選択に接続されている作品です。加えて、発売後4年にわたって後日談やイベントCGを追加し、バージョンアップでルートそのものを増やしてきた運用は、購入後に内容が目減りしないという実利にもなっています。
減点は2点です。一つは、プレイ時間が公開情報から確認できないこと。エンド12・フルボイスという情報から相応の分量は推測できますが、3,850円という価格に対して尺が読めないのは、購入判断の材料が欠けている状態です。もう一つは動作環境で、日本語版 Windows Vista / 7 / 8 / 10 とあるものの、Windows 11 は明記されていません。2023年9月に更新されている作品ではありますが、公開情報だけでは現行環境での動作を確認できないため、ここは差し引きました。
異世界に渡った先で、傷を負った人たちと関係を築いていく物語を腰を据えて読みたい人には、価格に見合う内容だと考えられます。逆に、手軽さや環境の自由度を優先するなら、前述の比較作のほうが条件は合います。
作品データ
- ブランド
- Dusk
- 当サイト評価
- 4.0
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